自殺対策に取り組む際、病気や貧困やいじめ等、
自殺のきっかけとなる諸問題に向き合うことも大切ですが、
自殺とどうにも切り離せない問題は【死んだらどうなるか。】ということです。
見落とされがちですが、自殺を真剣に考えた人ならば、
これが気になるのではないでしょうか。
私も子供のころ、誰かから自殺すると悪い処へ行くと聞かされ、
自殺はできないな、と幼心に思ったことがあり、
それが自殺という選択を思いとどまる一因になっていたように思います。
『死んだらどうなるか』この問いに関しては、いろいろな思想主張がありますが、
まずは、「有る」か「無い」か、のどちらかです。
また、有るならば、「楽しい世界」か「苦しみの世界」かの
どちらか、に分けられましょう。
もし、死後が無いなら、死は現在の苦しみを抹消する手段となります。
極論を言えば、末期癌で激痛に喘いでいる人は、
生きて苦しみを延ばすよりも、早く死んだ方が良いことになってしまいます。
あるいは、死後が存在しても、
違う人間に生まれ変わったり、楽しい世界に行けるのなら、
嫌なことがあれば、リセット感覚で自殺すればよいということになります。
苦しみに耐えるより、再チャレンジ、とばかりに
死んでやり直した方が利口です。医者も要りません。
このように、自殺と死後の問題は切り離して考えられることは
ないはずです。
では実際のところ、どうなのか。
実のところ、何1つはっきりしません。
有るのか、無いのか、有るとしたら、
どう有るのか、誰もはっきりしません。
「死んで妻のところへ行きたい。」と自殺する人もありますが、
実際はどうなのか、そんな会えるようなものなのか、ということです、問題は。
自殺者の心境は今があまりに辛くてとにかくこの苦しみから逃れたい、
その一心で死を選ぶのでしょうが、
死んだらどうなるか、真剣に見つめて
どうか思いとどまってもらいたい、
と思います。
ブッダは「自殺ほど愚かなことはない。」と説かれた方です。
愚かだと説かれる理由は自殺者は「飛んで火にいる夏の虫」だからです。
夏に火に飛び込んで虫が死んでいくのはなぜなんでしょうか。
明りに群がるのが習性なのか、炎を花だと勘違いして蜜を求めて近寄ってくるのか、
少なくとも、あそこに飛び込むと焼け死んでしまう、
と覚悟して飛び込んでいるのではないでしょう。
無知なるが故の悲劇です。
お釈迦様が自殺を止められた話が仏典にありますが、
その止め方はどんな教育者もカウンセラーももう言わない、
発想もできないような止め方をされています。
そのエピソードを紹介します。
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ある時、釈迦が托鉢中、
大きな橋の上で、辺りをはばかりながら一人の娘が、
しきりと袂へ石を入れているのを見つけた。
自殺の準備に違いない、と知った釈迦は、さっそく近寄り、優しくその事情を尋ねた。
相手が釈迦と分かった娘は、心を開いてこう打ち明けた。
「お恥ずかしいことですが、ある人を愛しましたが、今は捨てられてしまいました。
世間の目は冷たく、お腹の子の将来などを考えますと、死んだほうが
どんなにましだろうと苦しみます。どうかこのまま死なせてくださいませ」
娘は、よよと泣き崩れた。
その時、釈迦は、哀れに思い、こう諭している。
「愚かなそなたには、例えをもって教えよう。
ある所に、毎日、重荷を積んだ車を
朝から晩まで引かねばならぬ牛がいたのだ。
つくづくその牛は思った。
“なぜオレは毎日、
こんなに苦しまねばならぬのか、
自分を苦しめているものはいったい何なのか”と考えた。
“そうだ! この車さえなければオレは苦しまなくてもよいのだ”と、
牛は車を壊すことを決意した。
ある日、猛然と走って、車を大きな石に打ち当てて、
木っ端微塵に壊してしまったのだ。
ところが飼い主は、こんな乱暴な牛には頑丈な車でなければまた壊されると、
やがて鋼鉄製の車を造ってきた。それは壊した車の何十倍、何百倍の重さであった。
その車で重荷を同じように毎日引かされ、
以前の何百倍、何千倍苦しむようになった牛は、深く後悔したが後の祭りであった。
牛が、ちょうど、この車さえ壊せば苦しまなくてもよい
と思ったのと同じように、
そなたはこの肉体さえ壊せば楽になれると思っているのだろう。
そなたには分からないだろうが、
死ねばもっと苦しい世界へ飛び込まなければならないのだ。
その苦しみは、この世のどんな苦しみよりも
恐ろしい苦しみなんだよ」
そして釈尊は、すべての人に“後生の一大事”のあることを諄々と教えられた。
娘は、自分の愚かな考えを深く後悔し、釈尊の教えを真剣に聞くようになり、
幸せな生涯を生き抜いたという。
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